山本周五郎(2)

七日七夜

「七日七夜」山本周五郎 「あんちゃん」新潮文庫 より ☆☆☆☆

最後まで書いています、注意!

 本田昌平は三千石ばかりの旗本の四男坊。彼は戯作の筆写で小遣い稼ぎをしていた。
 内職は禁じられていたが小遣いが足りない。しかし腹が減って手が振るえ字がうまく書けない。
 いつまで待っても朝食のお呼びが来ないのでこちらから行く。どうもこちらに飯を出すのを忘れていたらしい。

 長兄は結構収入があるのだが、吝嗇家で、次弟は町奉行の書記に出し、三弟は家扶の代役に使い、
昌平は下男同様の扱いだった。
 小遣いは下男の給金より少ない。
 外へ出るな、みっともないとよく言われるが、着る物は順送りのお下がりで満足な品は一つも無い。
 兄嫁にもいざ合戦の時のために縫い繕いや洗濯などを自分でしろという意味の事を言われる。
 おかげで召使達も彼には冷淡だった。

 出された飯と汁はすっかり冷え切っていた。さっき来た時は暖かい飯と味噌汁の匂いがしたのにである。
 昌平は切れた。膳をはね返し、兄嫁の所に行き、金を出させた。

 昌平は新吉原の遊女屋へ上がった。
 遊女も他の者も皆彼に世辞を言い、彼は嬉しく涙ぐみまでしたが、朝目が覚めると皆の態度は一変した。
 ものすごい金を要求され(吉原は金がかかるから、ぼったくりでは無い)、辛らつな事を言われる。

 岡場所に行く。やはり最初は好意的だが、金を取れば鬼のように変貌した。

 雨でずぶぬれの彼は「仲屋」という店に入る。
 注文もしないのに品が出て、又金を強奪するつもりかと思ったが、つきだしは酒についてて只だった。
 昌平は感動する。店の者も客達も優しかった。昌平は酔い、自分の感動を話し、酔いが度を越し、喚き出した。
 とうとう喧嘩になり、何度も殴られ、最後に彼は思わず叫んだ。「お母さま 堪忍して下さい、もうしません」

 昌平がわれに返ったのは朝のことである。ひどい病気だった。
 彼に優しくしてくれた客達や、喧嘩相手の若者や、その親方が謝罪に来た。謝りたいのはこっちだった。
 「仲屋」の父娘(おやこ)の親切には言葉がなかった。
 どうも彼はお屋敷での彼への仕打ちを全部話していたらしく、
客達はそんなお屋敷へはお気の毒で返せないって云っていたそうだ。
 そして彼は此処で一生暮らすとも言っちゃったみたいで、その気で住む家の心配をしている者までいるという。
 彼は二十六年の暮らしぶりから、お金の事も、遊びまわった事も、ひどい目に会った事も何もかも話していて、
そして何よりも皆があっと思ったのは彼が言った「お母さま、堪忍して下さい、もうしません」という一言だった。
 それで彼の話が全部嘘ではないとわかったのだ。

 深川仲門前に「仲屋」というたいそう繁盛した居酒屋があり、
そこの千代という娘に武家出の養子を取ったそうである。

感想

 実はこれ読み解きに自信が無い。
 あの「お母さま、堪忍して下さい、もうしません」っていうのは彼が母親によく折檻されていたって事?
 でも千代さんが、自分も母に死なれて、いっそう共鳴したと書いてあるから、違うような気がする。
 あれは彼が普段からいじめられているから、何かと言うと謝り言葉が出てしまうということかな。
 男の人は危機に陥った時「お母さん」と脈絡も無く言っちゃうらしいが。
 何だかんだ言って、お母さんこそいざと言うとき助けてくれるヒーローなのかもしれない。

 誰に対しても敬意を持って対応した方が良いよね。尊厳を踏みにじるのは誰にとっても良くない。

あんちゃん


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菊千代抄

「菊千代抄」山本周五郎 「あんちゃん」より 新潮文庫 ☆☆☆☆☆

最後まで書いています、注意!

 菊千代は巻野越後守貞良(えちごのかみさだなが)の第一子として生まれた。
 6歳の時池の魚を捕まえに行ったら、ある子が彼の前を見てこう言った。「やあ、若さまのおちんぼはこわれてらあ」 椙村(すぎむら)半三郎がそう言った男の子をお前は悪いやつだというような意味の事を叫んで突き飛ばした。
 それから菊千代は誰よりも半三郎を好きになった。

 十三の時母が亡くなった。彼が最後に会った時母は「お可哀そうに、菊さま…お可哀そうに」と言って涙を流した。

 十五の時彼は馬で遠出に出た。馬が暴走したが、何とか無事だった。しかし彼は失禁した。
 半三郎が彼を後ろから見てあっと言った。失禁を見たのだろうと気にせず屋敷に帰った。

 菊千代は女だった。巻野家では初めに女子が生まれたらそれを男として育てるという家訓があった。
 そうすれば男子が生まれるというのである。
 思い返して見れば半三郎は菊千代が女である事を知っていたみたいだ。
 菊千代は半三郎と柔術の稽古をした時、彼に押さえ込まれて快かった。
 それを思い出すと憤怒と羞恥で身を裂かれるような烈しい感情に襲われるのだった。

 菊千代は半三郎を刺した。父に世継ぎが生まれ、菊千代は女に戻っても良いのだが、男として生きる事にする。

 菊千代はある日夢の中で暴力を受ける。
 その夢を理解した菊千代は時に発作的に暴力を振るうようになり、このままでは狂ってしまうと山に引きこもる。

 菊千代はそこで二人とも商家生まれなのに、親に反対され駆け落ちをした夫婦を知る。
 二人がお互いを労わる姿を見て胸の奥が熱くなる。その時菊千代は「可哀そうな菊さん、可哀想に」と呟く。
 なぜそんな言葉を呟いたのかわからなかったが…。しかし後にそれが母の言葉であったのを思い出す。

 菊千代は再びあの忌まわしい夢を見るようになる。
 発作的な行動をとるようになり、近くの小屋に住み着いていた労咳の武士、
楯岡(たておか)三左衛門を屋敷内に住まわせてしまう。
 父が腰元たちを連れてくる。

 菊千代が眠っていたら、腰元の葦屋が彼女を愛撫した。彼女は葦屋を殺そうとするが男が止める。
 菊千代がどかぬと斬るぞと言うと彼は胸をはだけて見せて、「お斬りあそばせ、いざ」と言い、衿を合わせた。

 男、楯岡三左衛門は半三郎だった。半三郎は菊千代をお護り申し上げようとここまで来たのだった。
 菊千代は半三郎に女にしておくれと訴える。障子に曙の光が差していた。

感想

 こんなのも書いているんですね、山本周五郎は…。知ってる人いるのかなと思ったら32刷め。充分読まれてます。 さすがは山本周五郎。

 彼女が周りに当たる様はつらいものがある。自分でもわかっているけど、止められない。
 まあよく考えればうっかりさん過ぎるが(自分で察する事は出来なかったのか)、
男じゃないと急に言われても困る。
 彼女が誇り(?)が強いというのもネック。
 確かに半三郎にどう思われていたのかを思うと、私でも叫びたくなると思う。
 葦屋、父に言い含められていたのかもしれないけれど、菊千代にとっては慰めにはならないどころか狂いの元だ。 最後は少し救いだけど…。

 「ふるーつばすけっと」という漫画のある登場人物が男と思っていたら女らしい。
 彼女も周りに当たりちらし、不幸を撒き散らし、嗚呼きっとこの人も不幸なんだなと思っていたが、
男に見えて女というのが彼女の不幸の元なのかな。
 まだそこまで読んでないからわからないが…。菊千代の苦悩と重なって見えました。
 傷つけている人間もその事により傷ついている場合もあるだろう(そうとは限らないが)。
 この漫画の場合、彼女の心に寄り添い、彼女を救う事が全てを解決するんじゃないかな。
 あれだけ傷つけられれば難しいかと思うが…。
あんちゃん

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